田中(仮名)さんがカウンセリングオフィスPomuに相談しようと思ったきっかけは?
私は過去の性的いじめを一人で抱えて生きてきました。1人で抱えることはとても辛く、誰かに相談したいと思っていました。特に、性依存の悩みやマイナス志向な自分を変えたいという理由からです。男性の性被害を専門にされているということで、山口さんを信頼することができ、心を開くことが出来ました。
「ここなら安心して相談できそう」と思って頂けるように、性被害を受けた男性の専門の相談機関にしました。
確かに今までこのことを相談できるカウンセラーにめぐり会うことはありませんでした。
それでは、まず田中さんの親について?
とにかく支配的で、子供の頃から、私の意見など聞いてくれたことはなかったです。そのせいで、主張できない子だったのでよくいじめられました。
いじめについて話して頂けますか?
中学一年の時に学校で「おもらし」をしてしまいました。それをきっかけにクラスの「いじめっ子」2人組からの執拗ないじめが始まりました。最初は教科書、机に「しっこ」と落書きに始まり、靴を隠す、荷物を持たせる。
「おもらし」した人間の周りには、人は寄って来ません。自分からも避けていました。この2人が寄ってきてくれるだけでもありがたくて、全て言う事を聞くようになりました。反論しても聞いてもらえる関係ではなくなっていました。
同級生であっても、すでにこの時には服従関係になっていたのですね。次に、性被害(性的いじめ)の内容を話して頂けますか?
いじめも、いろいろとして飽きて来て新しいいじめを考えていくうちに「あそこみちゃおうぜ」という話になって来ました。最初は冗談だと思い、聞かないふりをしていました。しかし、あまりにしつこく毎日言ってきたので見せ合い程度ならいいと言ってしまいました。体育館倉庫に行ってまず「お前の見せろ」と言われました。
そのまま無言でだまっていると、チャックを開けて来てチャックを前回にして、ブリーフが丸見えの状態になり「本当に見ていいのか?」と聞かれて無言でいると、性器には触れないように、ブリーフを開けて引っ張り出されました。私はなぜか興奮から勃起していました。
性的いじめでも、される人が興奮するのも体の自然な反応です。田中さんが求めているわけではないです。
今だから興奮したのも自然だと思えます。当時は、自分が悪いのだと思ってしまいました。ある時は、いじめっ子2人に教室で押さえつけられて脱がされました。やはりわたしは脱がされる前に勃起していました。
「私はやられるのを待っているのか?」とここら辺から疑問を持ち出しました。たぶん見た人も、勃起しているから=気持ちいいやってもいいと思ったのでしょう。いじめているという感じもないと思います。
私は、この頃から、これが性的快感になっていました。恥ずかしくて逃げていたのが、見られたい。触られたい。そんな気持ちよさを覚えていました。今も、この快感でしか興奮することは出来ない体です。
トラウマボンドという言葉があります。トラウマの内容が嫌なことでも、性被害の場合、時に強烈に引きつけられて興奮することもよくあります。
ある日、また性的いじめに遭った。困ると思い逃げようとしましたが、押さえつけられてしまい、生まれて初めて、他人にされる経験をしました。電気が走るような快感でした。しかし出そうになるとハッとして、ふりはらう。そんなことの繰り返しで、完全に抑え込まれてしまいました。
そのうち性器の感覚がまったくなくなって、いまどうなっているのかさえ分からなくなり、他人がされている感じになってきました。射精後は、もう完全に起き上がる体力もなく、ぐったりとしたまま、まるまっていました。
性器など体の感覚がなくなったのは解離(自分を守るために体の感じを切り離すこと)だと考えます。興奮も求めていたかもしれないけど、本当はされたくなかった。「他人がされている感じ」というのも解離の影響だと考えます。
今振り返ると、確かに振り払おうと必死でした。興奮もあったが、とにかく訳が分からずもがいて様な気がします。
トラウマに遭うと、自分を守るために脳がオピオイド(痛みを和らげる化学物質)を出します。この快感物質の虜になってしまう。そして、性的いじめを再度経験したくなります。
あの時の快感を忘れる事が出来なくなってしまい、毎日どころか、常に頭から離れませんでした。誰かに見られたい。触られたい。そればかり考えていました。
その後、性被害による影響は?
中学の時の性的いじめで自分の中の何かが大きく崩れました。大切な何かを失いました。そして、性被害によって何十年という時間を失ったように感じます。
高校に入ってからも触られたいという欲求はなくなりませんでした。大人になっても同性の方とも関係を持ちました。25才の頃には、結婚も考え、女性とお付き合いもしました。しかし、うまくいきませんでした。セックスもしようとしましたが、勃起が無理で、相手を傷つけました。
いじめる側(加害者)が男性や男児の場合、被害者には性の困惑が起こります。頭では女性と付き合うものだと思っているが、体は性被害の内容(男性)に引き付けられていくこともよくあります。そのことがとても生きづらいという方は多いです。
された方は、一生その性癖と付き合い、別の性を探す事も出来ません。中学で全て強制的に決まった事は、何をどう努力しても、忘れようとしても、体にやきついています。
中学生という性についてまだしっかり理解できてない時でした。性をもてあそんでしまうと、一生それがそこで決定してしまう位の、大きな影響が体と心にやきついたと感じます。
確かに、性被害の内容が時に強烈に「やきついて」しまいます。しかし、共有することで回復することは可能です。では、田中さんは、カウンセリングを受けてみてどうでしたか?
この話を誰かに聞いて欲しくて山口さんにカウンセリングを受けました。過去の性被害を話すのはとても勇気がいりましたが、聞いてもらえたことは大きかったです。カウンセリング中も、性被害のことを思い出すと、辛さと性的興奮が出てきました。しかし、カウンセリングの後半で、「自分の体をコントロールできる!」と実感しました。
これも、山口さんとゆっくりのペースで話したことと、カウンセリング的な関わりをして頂いたからだと感じます。本当に私が求めていたものは性的興奮ではなく、「聞いてもらいたい」「分かってもらいたい」ということでした。精神的に受け留めてもらうことで心の底から満足しました。
田中さんは少年の頃から誰かに受け留めてもらいたくて、寂しい想いをされましたね。心を開いて「言いにくい部分」を正直に話して頂いたことで、新たな気づきと実感が得れたのだと思います。最後に、同じように苦しむ男性や少年に伝えたいことはありますか?
私の話が誰かの役に立てればと思いインタビューに応じました。子供たちには、性をおもちゃにして欲しくないと思います。もてあそんだ結果が、その後の人生にどれだけの事を及ぼすか知って欲しいとも思います。男子の性的ないじめを「男の子」だからと軽く扱わないでほしいと願っています。
好きな人同志が合意でしたことならいいのですが、強制的に押し付けられると、一生の一番大切な性が歪んでしまいます。遊びでの性の危険性を、大人が教えていく必要性を感じました。性依存や自分を否定することから抜け出すのは簡単ではないですが、今では回復が可能なのかもしれないと思うようになりました。